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文化住宅を解体しながらつくっている!? 前田文化管理人・前田裕紀のやり方 前編

ガ人

親から引き継いだ1軒の文化住宅をあの手この手で解体し続けている、前田文化の管理人にして、運営者の前田裕紀さん。そもそも「解体し続けている」という表現もちょっと妙かもしれない。建設機械などをもってすれば1日で解体してしまえる文化住宅を、2014年からもう5年近く解体しているのだ。
それだけの年月、解体を続けているだけに、2018年10月末の時点では、外壁、床、柱や天井の一部がすでに失われた状態で、建物としてぎりぎり成立しているような状態に見える。しかも、これでもまだ2階に暮らしている住人がいるというから、さらに驚きが増す。

そして、前田文化のある北大阪の茨木市は、6月には地震、8、9月には超大型の台風にも見舞われて、建物が被災で大きなダメージを被ったため、それを補修する「超回復」というイベントも行ったという。

あれ、解体してるのじゃなかったの!? 一体、前田文化は建物をこわしているのか、つくっているのか。もはやコントのようですらある、たぶん世界でも類をみない解体工事を続ける前田文化の前田裕紀さんの話をどうぞ。

インタビュー・テキスト:竹内厚
撮影:原祥子


<前田文化の解体名場面>

左上:2014年、元力士が張り手やツッパリで壁を解体。右上:2018年1月、解体工事の騒音にあわせて楽器を演奏した『騒音コンサート』(写真撮影:Kihara Chihiro)。下:2016年の『前田文化×子供鉅人 文化住宅解体公演』では、芝居のなかで壁や床がどんどんこわされた。ほんとに一度きりしかできない、奇跡の舞台(写真撮影:Kihara Chihiro)。

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5年目の苦情

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取材は前田文化の1階で。1階の一角は外壁はおろか、内部の壁もほとんどないので建物前の一般道路からまる見え。

 

2方向の外壁がないので、昼間は照明いらず。明るくヌケがいい…というか、なかば屋外気分。

 

―地震に大型台風、このあたりの建物はかなり被害があったみたいですね。

前田:うちも被害があったので、一部損壊とか半壊だとか、行政側の被災の診断みたいなのをお願いして来てもらったんですけど、診断できませんって言われてしまいました。いまの前田文化の状況が被災のせいなのか、自分たちでやってるのか、その境目がまったくわからないって。

―でしょうね。こんな建物、他にありませんから。

前田:なので、構造設計が専門の人に見てもらったら、柱も壁もこわしすぎていて、次おなじくらいの地震があったらほんとにやばいよって話で。実際、隣家と接している側の外壁のモルタルが、被災でばきばきにヒビが入って、とれた部分がぶらんぶらんしてた。これはさすがにまずいというのでちょっと直す…「超回復」をしてました。今後も建物をこわすプロジェクトを継続するために、回復させますという言い方で。

―こわすために直すという理屈。

前田:隣りの方にも迷惑をかけるので。けど、その話を隣りの方にしたら、今まで言ってこなかったけど、おまえらのやってることはすごく怖いぞと。建物をこわすならもうはっきりさせて、こわしてくれよって、とうとう言われました。

―5年目にしての苦情がついに。でも、むしろこの無茶な状況をいままでよく許容してくれたと思うべきでしょうか。

前田:ですね。自分だって隣りに住んでたら怖いと思いますから。

―隣人の方を代弁するわけじゃないですけど、どうしてこわさないの?

前田:建物をなくして更地になるまで、その過程で何ができるのかということ。あとは、この建物を所有している人間、つまり、僕が納得できる形でそれを進めたいということだと思います。

―重機で効率よくこわすのでは納得できないと。

前田:たぶん、それがイヤだと思ったので、わざわざいろんな遠回りする方法を考えながら、ちょっとずつ解体をやってきたんだなって気がします。といっても、別に価値のある建物でもなくて、どこにでもある普通の文化住宅。それをあたかも価値のあるもののように、古くてレトロな建築だからっていうつもりもない。だからこそ、いかに刺激的な方法でこわしていくのか、徹底的にこわし方を考えることにエネルギーを注ぐほうが、この建物に対する向き合い方としては合ってるのかなと思います。

2階の床も一部抜けている。1階は床もなく地面があらわに。家の要素をどこまで抜いていけるか、リアルな建物を使ったジェンガのような遊びにも見える。

 

話題にあがっている隣家との境界となる壁。モルタル壁を崩して、トタンで修復した。

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こわしながらわかってきたこと

前田文化が建っているのは、大阪の北摂と呼ばれる人気の高い住宅地。阪急電車の最寄り駅からも徒歩10分というアクセスの良さから、近隣ではタワーマンションの建設も進んでいる。ここが住む人も少なくなってきた田舎の過疎地とかではなく、日常的に人が行き来する一等地というのも前田文化の活動のユニークさに拍車をかける。こんな街なかで、よくこんなわけのわからないことが成立させられてるなって。

前田:僕もそこはかなり気を遣ってやってきましたけど、あえて近所付き合いをするつもりもないし、界隈の人たちのためになることをしようという気持ちもないんです。

―たとえば、道路を挟んで向かいにはごく普通のマンションが建っていて、前田文化のなかなか無茶な活動もまる見えだろうなと思いますけど、そこはどんな反応なんでしょう。

前田:大きなイベントを行うときには、一応、事前にお伝えにいくんですけど、はいはいわかりました、がんばってくださいという感じですね。

―テレビなどで見かける、ネコ屋敷の住人みたいな扱いになってません? 変わり者がいる、みたいな。

前田:それに近いかも(笑)。けど、この街にいつから住んでいるかによって、関わりかたが違ってきますね。昔から住んでる人たちは、またこんなことやってるのかって時々、見にきてくれて、コミュニケーションもあるんですけど。

―といって街のためにやってるわけじゃない。

前田:ないですね。正直なところでいえば、僕のものなんだから、こう見せたい、ダサく見られたくないという自分勝手な主張でしかないのかなとも思います。街のためという気持ちはあんまりない。街とは、絶対に関係してくるとは思いますけど。

 

前田文化の屋上に登れば、背景には大きなタワーマンションが建設中。前田さんが小学生の頃、屋上から文化住宅の住人さんたちと遠くの花火を見た記憶もかすかに残っているという。

前田文化と同じような文化住宅もちらほら。台風と地震の被害が目につく。

前田:街のことでいえば、このあたりがどんどん開発されてきて、戸建ての分譲が増え、大きなマンションが建ってという状況に対して、自分のなかではつまらない街になってきたなという気持ちはある。このエリアのなかで前田文化をどう見せていけるかということも考えているので、もしも前田文化が人里離れた田舎にあれば、今のようなやり方はとってなかっただろうなという気がします。

―街のためとかの建前でなく、自分の気持ちに従ってやっていること。だけど、ただの個人的な感傷でもないと。そこは、やっぱり建物というものが持つ性質かもしれませんね。

前田:そうですね。街への向き合い方はもっといろいろあるべきやろうなって気はしています。

―街に向き合う方法のひとつとして、解体し続ける。誰もがマネできることじゃない(笑)。

前田:やりながらわかってきたこともたくさんあります。最初は、もっとわかりやすく更地にして、そこで何か活動できるような新しい建物をつくることも考えたし、ちょっとずつきれいに手を入れていって、ということも考えてたんですよ。

―文化住宅だったら、ふた部屋ぶち抜いて、そこを新しいスペースにリノベーションするといったことはまず考えつきそうなことです。

前田:そうそう。だから、腐ってたりする土壁を隠すようにして、白い壁をつくって覆ってた時期もあったんですけど、いざやってみると違うなと思うことも多くて、またそれも全部こわしました。

―そういう過程も踏んでるんですね。

前田:ですです。地面がむき出しになってるのは汚いからと思って、自分たちで土間を打ったところもありますし。その土間もこないだ「騒音コンサート」をやったときに、はつる(こわす)つもりだったけど、僕らの土間打ちがあまりに強すぎて、ぜんぜん歯が立たなかった。ちょっと穴が開く程度で。知らないうちに、いいコンクリートを使いすぎてたみたいで(笑)。

解体といいながら、実はその過程はつくったりこわしたりの繰り返し。土間のように地面がむき出しになって、そこにコンクリートを打ち、次にそれを剥がそうとした、そんな戦いの軌跡があちこちに残る。

前田:だから、すごい不思議な感覚も生まれていて、僕らも日々の作業をするために、ある程度、整理したり掃除したりもするんですけど、ここはこれ以上触らずにこのままにしとこうとか、地面があらわになってる場所はいくら掃いても土が出てくるけど、砂まみれのままになってるところとその上を掃き掃除してるところとがあったりして。

―解体と回復、日々の作業とそのための最低限の整理整頓、どこまできれいにすればいいのか、たしかに基準がむずかしい。

 

きれいにしている壁もあれば、崩れかけたままの土壁も。もはや、常人には理解されない美意識の域へ。

前田:一応、僕がやってることもリノベーションとは言ってて、その枠でやってるほうがボケてる感があるかなって思うから。実際、なんでもかんでもリノベーションが万能みたいな認識が広まっていくのもつまらないなという気がしてます。ある物件をそのまま使うのか、解体するのか、リノベーションするのか、その間のグラデーションもいっぱいあって、個別の物件ごとに必要なことは違うはずなのに、「とりあえずリノベーション」といえば通るみたいな流れはつまらない。

―みたいなことを、前田さんは解体しながら考え続けてるんですね。だんだんわかってきました。

(後編に続く)

2018.12.07 fri

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岡山県のメーカー、タグチ工業所属で広報を担当している。やけに建設機械の先端で使用されるアタッチメント、と呼ばれる機械に詳しい。だが、理系ではない。

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ツクコワライター

  • 編集長
  • イシイコウジ

  • 写真家

岡山生まれ。
写真屋さん→ニート→デザイン事務所→まさかの写真で独立→仕事めちゃ忙しい→悩む→40歳になってやりたいことやる会社「株式会社おじさん」設立する→ノリでWEBメディア「ヒゲとメガネ」始める→飲食経験ゼロで、クリエイターが集まる「BARおじさん」作る→超個人的な出版社 おじさん研究所を設立→最近ブロガーじゃね?って言われる。←いまここ。
・ファイブグラフィックス 代表
・株式会社おじさん 代表取締役
・BAR おじさん研究所 オーナー所長
・出版社 おじさん研究所 代表

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岡山の制作会社でグラフィック・WEBサイトのデザインをしている傍らでミニチュアを愛でミニチュアを作る女。

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人を幸せにできるデザイン、人のためになるアートを目指しているクリエイター。基本的に何でも「おもしろい」から入るタイプ。岡山県出身。物事の奥深さにどっぷりハマっているさばちゃんです◎

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  • 株式会社スイッチ代表取締役

自称「和気町が生んだ革命児」
和気の山脈を愛し、和気の山脈に愛された男。
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スタッフに「白タートル着るとお腹ヤバイ」といわれスポーツジムに加入するが
それ以上に不規則な生活を行うためプラマイゼロ、むしろマイナス。
この逆境が逆に燃える(だが脂肪は燃えない)