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文化住宅を解体しながらつくっている!? 前田文化管理人・前田裕紀のやり方 後編

ガ人

5年近く解体を続けることで、前田文化という建物と向き合ってきた前田裕紀さん。これは、文化住宅に住み続けるというのとはまた違った建物への愛着の育てかたなのかもしれない。そう、前田さんは前田文化には住んでいないのだ。

インタビュー・テキスト:竹内厚
撮影:原祥子


 

<前田文化の解体名場面>

左上:「流しの洋裁人と前田文化による死と再生の儀式24時間」(写真撮影:Kihara Chihiro)右上:梁から釣られた宙吊りの作業員による「アクロバティック餅つき」で工事の安全を祈願。左下:2人の青年を6時間監禁して風呂桶をつくらせ、その様子をライブ中継した「文化住宅には風呂がなかった。風呂桶だけがあった。」右下:誰も何も話さないという前代未聞のトークイベント「サイレント・トークライブ」、いずれも2016年。

 

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住むことだけが建物との付き合いかたではないけど…

―これだけ前田文化という建物をこわし続けていると、前田さんが住人だという誤解もありますよね。

前田:それはよく言われます。ほんとは僕が住まなければいけないけど、僕は結婚してこの近所に住んでいて、親がこの建物の隣りにある実家に住んでいます。

―前田文化に住む気はない?

前田:昔、住んでたことはありますし、僕の奥さんが結婚する前にここに部屋を借りて、住んでたこともあるんです。今、これだけプロジェクトを続けてきたなかで、あらためて住んでもいいとは思ってます。けど、便利さとか住みやすさっていう現実的な話もあるじゃないですか(笑)。

前田文化の中を自由に歩き回るネコ。

庭にいるのも屋内にいるのもきっとネコの気持ちは一緒。

―意外とちゃんとした家に住みたいタイプなんですね。

前田:自分の住まいにそこまでワイルドさは求めてなくて、住むなら結構きれいなところがいい。汚いトイレはイヤだとかあります。

―前田さんが前田文化に住みはじめると、外壁も床もきれいに修復される可能性ありますね(笑)。

前田:あると思います(笑)。

―といいつつ、現在の状況でも2階にはまだ部屋を借りている住人さんがいらっしゃる。

前田:普通に考えたらありえない話ですけど、ずっと住んではる。アル中の方ですけど、最近大きな病気になって2週間くらい入院してられたんです。で、久しぶりにここに帰ってきたときに、僕らは1階で丸鋸を使ったりして作業をしてたんですけど、その工事の音を聞いて、「あ、帰ってきた気になったわ」みたいなこと言われて。

―建物内で解体が続いていることも、工事や作業の音ももう日常になっているんだ。そんな奇跡のような住人さんがいなくなると仮定したらどうでしょう。

前田:住んでいる人がいなくなれば、全然この建物の意味合いや僕の捉えかたも変わってくるんだろうなと思います。居住している人がいなくなれば、文化住宅ではなくなるかなと思ってるので。そのときが、もしかしたら次のプロジェクトのきっかけになるのかもしれない。

2階のいちばん奥の部屋に住人がひとり。

しかし、そのひとつ手間の部屋にはすでに床がない。

―新しい入居者を入れることは考えてない?

前田:それもなくはないです。賃貸住宅なので、その機能は継続してもいいかなって。

―外壁の一角がなかったり、2階の一部の床が抜けて吹き抜けになっていたり、1階の地面がむき出しだったり。そんないまの前田文化の環境ってつくれるものじゃないし、なんかやけに居心地いい気もしますよ。

前田:たしかに言われてみたら、少し前はプロジェクトや企画が行われるとき以外は、前田文化の中に入ることがなかったんですけど、最近はここにいる時間が増えてるかもしれません。

―この建物の状態は企画ごとにどんどん変化してるから、たまたま今だけの奇跡かもしれませんけど。狙って生まれた居心地じゃないですもんね。

前田:そういえば先日、ミュージシャンのMV撮影に前田文化を貸してくれって言われて、場所を提供したりもしました。ちなみに、これからの展開としては地面にいきたくて。現実的に建物はもう触れるところがないから、下へいくしかないってところもあるんですけど。

―地面を掘るってこと?

前田:掘って発掘調査をしたいと考えています。ただ、それをやってしまうと今、言ってた居心地のよさはたぶん…。

―建物のなかにでっかい穴が掘られると想像すれば…きっと居心地よくはないでしょうね。

前田:そうなんです。でも、やるしかない。

―いや、誰も頼んでないから(笑)。

この床、というか地面が次のターゲット!?

―もうひとつ確認しておきたいのは、前田さんは解体作業そのものが好きというわけではないんですよね。

前田:んーそうですね、好んでやってるわけじゃない。思い返してみたら、今までやってきた全部の作業はただただしんどいなとしか思ってなくて、早く終わらせたい(笑)。もちろん、手伝ってくれている職人さんとかは、こだわっているところがあったりしますけど。

―でも、基本的にさまざまな工事を自分たちでやっている。

前田:それは現実的な問題、お金の都合が大きいですね。ただ、自分たちで手を入れてるからこそ、建物との距離は近づいてるんだろうなという気はします。

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こわすことの可能性

継続的に前田文化に関わるメンバーのなかには、前田文化に寝泊まりする際に、なにか人の気配を感じるようになったという体験も起きたという。それが昔、住んでいた人のものなのか、建物が持つものなのか、分析不能な体験談には違いない。ただ、住人でも大家でもなく、その土地に縁があったわけでもない人が、解体をし続けることで、だんだん建物と心を通わせるように…。これはなかなか興味深く、こわすことの可能性を秘めてはいないだろうか。

―前田さんにとって、この5年間の、そして今後も続くであろう前田文化の解体って結局なんでしょうね。

前田:やっぱりそのときどきで、こうやるのが普通だという普通のラインが出てきて、それに対してナニクソ! と抵抗し続けてるところはあると思います。普通がそうくるんやったら、こっちはこうやるぞと。

―日本語が追いついてこない感じがしますね。こわす、つくる、のこす、建物への愛着や思い入れ…そんな言葉ではやってることの一部分しか言い当てられてないような。

前田:そうなんです。自分でもまったく説明はできないと思います。かといって、建築や都市計画、現代アートに寄せて話すのも違うなと思うので。

―前田さんの人格が反映してる行為ではありますね。

前田:それはありますね。人格障害とまで言わないけど、人にすごく興味はあって、仲良くなりたいけど、なぜかそれをいきなり断ち切るようなところが自分にはあるので、そういう自分自身が持ってる要素が反映されたる気はしています。

―もはやこの解体/構築スタイルを前田式と名付けるしかないのでは。

前田:そうっすね。けど、怪しくならないですか。

―もうすでに十分怪しいから(笑)。最後に、前田さんにとってのこわすとは何か。このウェブサイトの名前にあわせて、ひと言いただきたいです。

前田:しんどいことかな。エネルギーはかかるし、昔のことを考えることにもつながっていくし、こわした後のことも考えなきゃいけないし、関わってくるいろんな人のことも考えなきゃいけない。ものすごくしんどいことしてるなって気持ちです。

―もしかしたらつくるよりも。

前田:うん、つくるよりも大変なことです。

 

前田文化
http://maedabunka.com/


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2018.12.15 fri

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  • ツクコワライター#01
  • ガ人

岡山県のメーカー、タグチ工業所属で広報を担当している。やけに建設機械の先端で使用されるアタッチメント、と呼ばれる機械に詳しい。だが、理系ではない。

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ツクコワライター

  • 編集長
  • イシイコウジ

  • 写真家

岡山生まれ。
写真屋さん→ニート→デザイン事務所→まさかの写真で独立→仕事めちゃ忙しい→悩む→40歳になってやりたいことやる会社「株式会社おじさん」設立する→ノリでWEBメディア「ヒゲとメガネ」始める→飲食経験ゼロで、クリエイターが集まる「BARおじさん」作る→超個人的な出版社 おじさん研究所を設立→最近ブロガーじゃね?って言われる。←いまここ。
・ファイブグラフィックス 代表
・株式会社おじさん 代表取締役
・BAR おじさん研究所 オーナー所長
・出版社 おじさん研究所 代表

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  • 株式会社スイッチ デザイナー

岡山の制作会社でグラフィック・WEBサイトのデザインをしている傍らでミニチュアを愛でミニチュアを作る女。

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人を幸せにできるデザイン、人のためになるアートを目指しているクリエイター。基本的に何でも「おもしろい」から入るタイプ。岡山県出身。物事の奥深さにどっぷりハマっているさばちゃんです◎

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  • 株式会社スイッチ代表取締役

自称「和気町が生んだ革命児」
和気の山脈を愛し、和気の山脈に愛された男。
自然で培われた嗅覚は、新規ビジネス話の嗅ぎ分けをも可能とする。
スタッフに「白タートル着るとお腹ヤバイ」といわれスポーツジムに加入するが
それ以上に不規則な生活を行うためプラマイゼロ、むしろマイナス。
この逆境が逆に燃える(だが脂肪は燃えない)